月とバイオリン
どうしてそんなことに気付かなかったのか。

どうかしている。

いや、どうかしていたのは確か。

許容量オーバーの問題と取り込み中で、心も頭もぎりぎりだったのだから、思い違えてしまっても仕方がない。

前後の出来事をもってして強い調子で自分を説得したシェリーは、成功したことにして頷いた。

よし。
仕方かがなかったのだ。
出来上がり。

「でもとにかく、あなたがリースを助けてくれたんだものね。お礼は必要よ。ありがとう」


 影に隠れてしまい、どんな表情で言葉を受け止めたのかは見ることができなかった。

代わりに光の中に残る、大きな手を見つめる。

そう、あの手がカノンを紡いでいたのだと、思い出すような心地だった。







< 96 / 125 >

この作品をシェア

pagetop