久遠の花〜 the story of blood~【恋】
「忘れものはなし、っと」
朝食を食べ終え、食器を流しに持って行く。最後に、薬をカバンに入れれば準備完了。
「私、そろそろ行くね」
「おや、もう行くのかい?」
湯呑をテーブルに置くと、おじいちゃんはやわらかな笑みを浮かべた。
「久々だし、余裕もって行こうかなって」
「そうかそうか。ゆっくり、無理せず行って来なさい」
「うん!――それじゃあ、行って来まーす」
笑顔で挨拶を返し、私は傘を持って家を出た。
学校へは歩いて三十分ほど。家は小高い丘の上にあるから行きは楽だけど、帰りは上り坂だから、ちょっと時間がかかるんだよね。
「…………」
坂道を下る途中、休憩スペースがある場所に着くなり、私は一旦足を止めた。
別に、誰かいるわけじゃない。待ち合わせをしているわけでもなく、ある一点を――木で作られたベンチを見て、二ヶ月前の出来事を思い出していた。
――入学式が終わった後。
私は病院に行き、念のため検査を受けていた。
結果は異状なし。これならしばらくは大丈夫だろうとお墨付きをもらい、私は気分よく病院を後にした。
――大丈夫、かも。
調子がいい今なら、少しは傘を差さなくてもいいかと思い、しばらく普通に歩いてみた。
日が落ち始めているから、日差しもやわらかい。
顔も熱くならないし、これなら今日は家まで行けそうだと、一層気分がよくなっていた。
坂道を上ると、休憩スペースにさしかかる。そこで私は、いつものように奥へと進んで行った。