久遠の花〜blood rose~雅ルート

「ちょっ。これじゃ拭けなっ――もう、大人しくしなさい!」

 パシッ! と、体を拭いていた布を男性の顔に投げつける。
 な、なんで自分の体なのにぃ~!
 自分の意思と反して、しゃべったり動いたり。目の前にいる男性に、申し訳ない気持ちだった。

「お前……それがケガ人にすることか」

「話す元気があるなら大丈夫ね。ほら、ちょっと寄りかかって」

 男性を起こすと、お腹にある傷に薬を塗りこんだ。
 納屋の小窓から、月灯りが照らす。
 顔を見れば、男性の髪は耳が隠れるほどの長さ。瞳も大きくて、こうして黙っていれば、女性と間違えてしまいそうなほど綺麗な容姿で――その人は、雅さんだった。

「これでよし、っと。歩ける?」

「……多分な」

「じゃあ移動ね」

 そう言い、雅さんの腕を肩に回す。なんでここに居るのかとか聞きたいのに、体も声も、思うように動いてくれない。まるで、過去を体感しているみたいだ。

「んなことしなくても、すぐ出てってやるって」

「残念。その逆」

 ゆっくり納屋から雅さんを移動させると、少し離れた場所に、小さな家があった。
 中に入れば、質素な寝床と最低限の家具。

「ここで寝てなさい」

「……正気、なのか? 見ず知らずの、しかも男を連れ込むなんて」

「ケガ人になにができるの?――あなたの方が、よっぽど正気じゃないわ」

 胸が、ズキリと痛む。
 途端、ここでの状況が頭に浮かんだ。



 私は一人――ここで生活してる。



 近くの村までは、馬を走らせ半刻ほど。
 私には、村の人とは違うことがある。だからみんなとは一緒にいれないし、一緒にいてはいけない。

「私はね――魔女。だから、こんな場所に暮らしてる」

 そう、私はみんなと違う。
 森で生活してきたせいか、草花には詳しい。そこからどうすれば傷に効くか、毒になるかを、長年家族から伝わっているからよくわかる。
 でも、それは他から見れば恐ろしい。
 知らないことを知っている。そしてそれを解決できる者は、異端でしかないんだ。

「早く治らないと、あなたまで仲間だって思われるわよ?」

「……別に、今と変わらない」

 つまらなそうに言う雅さんも、同じ状況なのか。特に私のことを気にする様子はない。



「アンタも気を付けな。――オレ、血を吸うバケモノだから」



「欲しいならあげるわよ?」



 髪を右側に束ね、左肩を露にする。
 血をあげるなんて怖いって思うのに、ここにいる私は、すんなりとそんなことを言ってのけた。

「アンタ……ホントに正気じゃないな」

 そりゃそうだよね。
 自分でも、こんなことをされればそうなると思う。

「ホントに吸ったら――どうするつもり?」

「死ぬほど吸われるのは嫌よ。それが守れるならあげる」

 にこやかに言う私を、雅さんは唖然とした表情で見ていた。

「もう、ただのバカだよアンタ」

「そのバカに介抱されたのはあなたよ?――ほら、ケガ人は寝なさい」

 雅さんに布をかけると、視界がぼやけていく――…。
 何度か瞬きをすれば、今度は、さっきまで見えていた景色とは違う光景が見えた。
 ここでも私の体は勝手に動いてるから、なんとも言えない気分になってくる。
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