暁に消え逝く星

知らぬことの罪


 稽古した場所からさらに、丘を二つ越えたところに、その湖はあった。
 砂漠のオアシスのように、荒地にぽっかりと出現した、さほど大きくもないこじんまりした湖は、頻繁に旅をする渡り戦士しかしらない格好の穴場だった。
「こんな所に、湖があるとは」
 感心するイルグレンをよそに、ずんずんと岸へ向かう。
「そこで待ってな。すぐ戻る」
「まさか、泳ぐ気か?」
 珍しく察して、問われる。
「ああ」
「着替えはどうするのだ? 持ってきていないだろうが」
 剣帯ごと剣を外し、長靴《ちょうか》を脱ぐ。
「必要ないさ」
 言うなり、アウレシアは軽やかに湖に飛び込んだ。
「レシア!!」
 水面に顔を出し、振り返ると、驚いたまま立ち尽くしているイルグレンが見える。
「少し泳いでくる」
「そのままでか!?」
「服も洗えて一石二鳥だろ。このほうが」
 中ほどまで泳いだアウレシアは、もぐって向きを変えると、今度は岸まで泳いで戻った。
 熱気から解放され、気分は爽快だった。
 先ほどまでの気分さえ嘘のように上機嫌で、差し伸べられたイルグレンの手を掴み、アウレシアは水からあがった。
 まだまだ暑い日差しは一向に衰える気配もなく、それどころか、アウレシアの濡れた体から物凄い勢いで水分を奪っていく。
 後ろに結い上げ垂らした髪を軽く絞り、それから剣帯と長靴を手に持つ。


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