暁に消え逝く星

 二巡目が終わり、対戦者が三人になったとき、急遽、イルグレンは最後にまわされることになった。彼の技量が見た目では量れないことを知っての配慮である。
 残りの二人が先に闘い、勝った者がイルグレンと闘うこととなった。
 最後の腕比べである。
 さすがに、この対戦はやや長引いた。
 イルグレンの最後の相手は、なかなかの技量を持っていた。
 しかし、アウレシアほど素早くも強くもなかった。
 イルグレンはすぐに相手の剣筋を読み,相手に隙ができる構えを見抜いた。
 幾度か打ち合い、隙を確認する。
 どの男達も、細身のイルグレンならば力任せに打ち合えば勝てると踏んで、上段で打ち込んで隙ができていたが、この相手はそれを読んで上段で打ち込むと左から払うのを癖としていた。
 イルグレンの木刀が、予測通りに自分からは右側となる男の斜め上からの払いを、先に懐に入り、剣先に沿うようにとどめ、体ごとぐるりと木刀をひねる。
 その勢いで、相手の腕が不自然にねじれ、木刀が手から落ちた。
 惰性で身体を回したイルグレンが相手の落とした木刀を踏みつけると同時に顎下に水平に自分の木刀を当てて、勝負はついた。
「――参った」
 続く歓声の中でも、しばしイルグレンは動けなかった。
 木刀を下ろして大きく息をつく。
 進め役の男が舞台に上がり、
「若いの、名前は」
 イルグレンに問うた。
「あ、ああ――グレン、だ」
 唇の端を上げてにやりと笑うと、イルグレンの腕を掴み上げ、周囲の見物人達に向かってよく通る声で叫んだ。
「ようし、今日の勝ちはグレンだ。みんな、異存はないな!!」
 周囲の大きな喝采と拍手が、イルグレンの勝利を受け入れていた。
 群がる見物人に囲まれて話しかけられ、戸惑いつつも返答するイルグレンをアウレシアは大人しく待っていた。
 ようやく解放されてこちらにやってくるイルグレンは、あけすけな賞賛に素直に喜んでいた。
「お帰り、やったじゃん」
「これが、働くということか?」
「戦士にとってはね」
「では、私は金を稼いだということだな」
「ああ。上出来さ」
 賞金をもらってくるように促され、イルグレンは言われた通りにもう一度舞台へ上がった。


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