メイド in Trouble!!!

「じゃあ、ね」

バタン、と小気味よく車のドアを閉めると、女の人はエンジン音を響かせながら去っていく。

残された黒髪の男の子の手には、あり得ないほど束になった諭吉さんたちが収まっている。

…これって、そういう関係、ってこと?うわー、まずいもん目撃しちゃったなー…よし、知らないふり、しとこ。

そう思ってなるべく目を合わさないように、男の子の前を通り過ぎようとした。

…のだけど。


「おい」

「……はい」

目の前を通り過ぎる直前で、呼び止められてしまった。

「ちょっとアンタ」

いきなり腕を引っ張られ、壁際に押さえつけられるあたし。華奢とはいっても、チビなあたしよりは背も高いし、力も強い。

まだ幼い感じの残る顔が、あたしを睨む。

いやー、見ちゃったのは悪いと思いますけどね。コレは不可抗力ですよね?ね?

なぜ、呼び止めるんですか。あたしを。なぜ、睨むんですか。そんな怖い顔で。

「いまの、見てた?」

「いや、見てたっていうか、見てないっていうか。通りかかったっていうか、聞いちゃったというか…」

「見てたんだ?」

「……はい、見てました」

中学生相手にキョドるあたし。だって、奇麗な分、妙に怖いんだもん、この子。

「口止め……しといたほうがいいかな?」

そう言ってぎゅっと腕をつかまれる。

いたたたた。口止め…ってなんですか。ナニされるんですか。まさか二度と見れないくらいにボッコボコですか。すんごく怖いんですけど。

「いや、け、結構です。あたし何も見てません。ええ。見てませんとも」

必死に目をそらしながら言う。

「そ、じゃあいいけど」

男の子はそう言って笑うと、ふっと掴んでいた手を離した。

こえー。最近の中学生、マジこえー。いろんな意味でこえー。

そう思いながら、掴まれた腕をさすっていると…

「誰かにいったら、どうなるかわかるよね?」

顔を覗き込んで、言う。笑顔が、怖い。

……はい、もちろんですとも。誰にも言いませんとも。

あたしは、無言で頷くことしかできなかった。
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