猫とボク。

　鼻の頭をちょいちょい、と指先で撫でて、額を撫で撫で。
　すると、片目が開いた。
「ん……お帰り」
「ただいま」
　顎の下をくすぐるように撫でてやれば、うーん、と首を伸ばしてくる。

　そのうち、むくっと身体を起こしたタマは、背中を持ち上げたり反らせたりして伸びをしたついでに、ボクの手に頭をグリグリと擦り付けてきた。
「……なに？」
「アゲハはオレのものだってこと」
「へ？」
　何のことやら疑問を抱いたボクそっちのけで、タマは寝起きの毛づくろいを始めた。
　あっちをペロペロ。
　こっちをペロペロ。
　んぺっ、んぺっ、と擬音語をつけたくなるのは、ボクだけではないと思う。
　そんな風に、一生懸命毛づくろいする姿は、なんだか微笑ましいんだけど……。
「ねぇ、そんなに汚れてないよ？　そんなに舐める必要ないじゃん？」
　ぎろっとタマがボクを睨んで。
　ぶんっ、と音がした。

　「いたーい……」
「ふんっ！　余計なお世話だ！」
「タマ、爪伸びてるでしょ……」
「当たり前だ！　オレの爪は武器だぞ！」

　ボクの手には、見事な引っかき傷ができました。
　後で絶対、爪切ってやるんだから！