としサバ
28話 女将
 マンションに帰ると、信彦はパソコンで、四友自動車の株価を大急ぎでチェックをした。

 株価は後場が始まったばかりで、88円を付けていた。

 「いったいどこまで下がれば、気が済むんだ」

 信彦はパソコンに向かって、怒鳴り付けた。

 「ピーイイ、ピーイイ、ピーイイ」

 その時、電話が鳴り出した。


 「もしもし、お父さん、私よ。昨日から何度も電話を掛けているのに、留守ばかりよ」


 電話の相手は、娘の沙穂だった。


 「何か、用か」

 「ひとりで不自由だと思うから、料理を持って行って上げようと思っているのに、留守ばかり。いったい、どこに行っているの」

 「俺の事は構うな。ひとりで適当にやっているから」


 「昨日は家に帰ってないのでしょう。私、夜の1時頃と、朝早くにも電話したけど、お父さん、電話に出なかったわ。お父さん、女でも出来たの」


 「そんなものいる訳ないだろう」
 「女の感よ。そんな気がするわ」

 「お前の思い過ごしだ。いま、忙しいのだ。電話を切るよ」

 「お父さん、あっ」


 信彦はこちらから電話を切った。





 
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