としサバ
 「女将に逢いたい。逢って、女将の真意を確かめたい」

 
 信彦は逸る気持ちを抑えながら、女将のマンションに向かって足を速めた。

 女将のマンションに着いた。


 エレベーターが上で停止していたので、信彦はハーハー言いながら、階段を急いで7階まで駆け上った。 

 信彦はインターフォンを押した。


 「・・・」


 もう、一度、押した。

 「・・・」

 それから、何回か立て続けに押した。
 
 「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

 「留守か」

 信彦はエレベーターで1階に降りた。

 「701号室の吉井さんはどこに行かれたかご存知ありませんか」

 信彦が管理人に尋ねた。



 「吉井さんですか。引越しされましたよ」

 「えっ!」


 信彦は顔の相が変わるほど驚いた。

 「い、いつですか」
 「昨日ですよ」

 「どこに引越しされたか、ご存知ないですか」
 「聞いていませんね」

 管理人はいい気味だ、と言わんばかりに、口元に笑みを浮かべながら言った。


 「どうも」


 へにゃへにゃと力が抜けて行くのが、信彦にはわかった。




 
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