としサバ
11話 ロマン
 信彦の夢は、マンションの一室を借り、パソコンを3台ほど置いて、本格的に職業として株取引をする事であった。


 甘い。無謀。狂気の沙汰。


 株取引を職業にする事が容易で無い事は、自分自身が一番良くわかっていた。


 失敗を恐れない。


 信彦は心が決まると、就職活動を打ち切った。

 それから、1週間ほどして、適当なワンルームマンションが靱公園の近くに見つかった。

 洋室で、広さは8畳大。
 家賃は共益費込みで7万円弱。
 公園に隣接し、窓越しに公園の緑が見えた。


 信彦はパソコンを3台、それを置く長めのデスク、そして座り心地の良い椅子、折りたたみベッドを購入した。

 寝泊り出来るトレーディングルームにする為、台所には生活する為の最低の道具を備えた。


 (これで用意は出来た。後は、妻と話し合うだけだ)


 信彦は背広の内ポケットから離婚届を取り出すと、サインをし、印鑑を押した。 




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