強引な次期社長の熱烈プロポーズ
だけど毎日見ていると余計に“自分の一本”を決め兼ねてしまう。
今手にしているこのメーカーももちろん憧れはあるが、自分が手にした時と、柳瀬が手にした時の印象が全然違う。

百合香は自分自身はまだまだ似合う代物ではない、と思っていた。


(じゃあ、私はどのペンが欲しいのかな。)


そんなことを考えながら手はペンを次々と磨き、目はショーケースを一回りする。

女性らしいデザインのものも素敵だけれど、やっぱり昔からあるようなシンプルなデザインも味があっていい。
舶来品は基本的にはデザインが斬新で魅力的だけど、国産品は書き味が自分に合ってる気がする。


こんな風に大好きな文房具を考えながら仕事をする百合香の時間は幸福の時。


すると、目の前に人影が来たことに気がついて慌てて笑顔で顔を上げた。

「いらっしゃいませ…!」
「…楽しそうだな」

お客様だと思った目の前の人は柳瀬だった。


「柳瀬さん!」
「発注終わったの?」
「もう全部午前中に。今日は暇ですね。」
「それで磨いてくれてんの?」
「はい。綺麗になって真っ直ぐ並んだペンを最後に見るのが楽しくて。」


無邪気に笑いながら手を動かす百合香を見て、柳瀬は一瞬百合香と二人きりのような笑顔をしてしまう。

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