強引な次期社長の熱烈プロポーズ
気にしていた柳瀬の過去。柳瀬の想いを寄せる人。
その不安がまさか逆転するなんてちょっと前の自分には想像できる筈もない。


「···幻滅しなかった?」
「なんでそんなことっ…」
「百合香は俺をこんな男だと思ってなさそうだから」
「…これは、いい意味での“裏切り”ですっ」


だけどどうして気付かなかったんだろう。
智さんの“桜”をみたときに。

…きっと、あまりの月日で艶やかになった“桜”が変わりすぎていてあの日の記憶に辿り着けなかったんだ。


柳瀬は百合香の耳へと伝って流れる涙を唇で掬うと、ぐいっと腕を引っ張り上体を起こした。
そしてその体をぎゅうっと抱き締めると、百合香も背中に手を回す。


時間が止まったと思った。

智さんの香りに包まれて、智さんの温もりを感じて。


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