Buonanotte!
 白い部屋には何もない。

窓もない部屋が白いのは電気が明るいから。

ドアにはいつも鍵がかかっていて。



中には私とあの人だけ。




あの人は此処に来ると落ち着くのだというけれど私は生まれてからずっと此処にいるから解んない。





「お兄ちゃん。」


「なんだい、亜桃?」


あの人、お兄ちゃんと彼の喋り方は少し似ている。
似ているけれど似てるだけ。

彼の声は優しいアルトで今もこの耳に微かに残ってる。



それを私は忘れない。






「いつになったら此処から出られるの?」


出られたなら今すぐ彼のところに行けるのに。





「それは出来ないよ。」

お兄ちゃんは私の肩に手を置いた。





「言っただろう?君は生きてるだけで周りの人間を傷付けるんだ。」


それは本当の事だと思った。



だけどね、

「でもね、もし・・・もし傷付かないって、私が生きてても傷付かないっていう人がいたら?」



彼は笑った。

あの日、私は生きてるだけで周りの人を傷付けてしまうんだと言ったら、


『傷つけてもいいよ、僕は傷付かないから。』

彼は笑ってくれた。






「そんな人間いないよ。」




あ・・・・・・。


あの人は私の肩を痛いくらい強く掴んだ。


「分かってるだろう、亜桃?誰もいないことくらい。例外なんてないんだ。傷付くんだ、皆、お前も。」


「・・・・・・。」

「だから仕方ないんだよ、お前を守ってやるにはお前は此処にいないといけないんだ。」






何も言えない。



多分あの人の言う通りかもしれないから。


殺し屋さんは来ない。







それでも、


来なくたっていい。




せめて彼が幸せであればそれで良いよ。


私が独りこのまま消えたって、彼が独りじゃなくならいいよ。


だから神様、彼を独りにしないで下さい。

どうか誰か彼に気付いて下さい。





私はこのまま独りでいいから。

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