アジアン・プリンス
(25)愛と称号
「ここはアサギ島のスマルト宮殿ではないか。違うのか?」

「おおせの通り。そして、今ここにはミセス・サイオンジがご滞在でございます」

「……知っている」


実のところ、アズウォルドはキスの挨拶が習慣の国ではない。

キスは特別な思いを籠めて、特別な相手とするものだ。欧米での留学生活が長いレイにしても変わりはない。

ひと目で親密な関係を思わせるキスなど、昼間のビーチですべきことではなかった。


アサギ島上空を許可なしでヘリが飛ぶことは許されていない。だが、万にひとつ、パパラッチに撮られでもしたときは……。

ティナをマスコミから守るため、王妃の話を勧めた。なのに、これでは余計に苦しめることにもなりかねない。


「殿下。もし、ミセス・サイオンジの目に、おふたりの仲がご親密に映れば……。聡明な殿下のことです。すべて言わずともおわかりでしょう。一刻も早く、フサコ様のバングルをお返し願うべきかと」

「サトウ、それは」

「いえ。もちろん、クリスティーナ嬢には特別なお品を用意させていただいております。それでご満足いただけるかと」


レイは軽く舌先で唇を湿らせ、重い口を開く。


「そういう問題ではない。――彼女はすでに気付いている。クリスティーナを私の愛人と呼び、ひと騒ぎ起こしてくれたあとだ」


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