アジアン・プリンス

(5)アーロンの父親

「レ……イ」

「陛下! いいえ、レイ! お待ち申し上げておりましたわ」


ティナが声を出そうとしたとき、エリザベスは素早く立ち上がり、レイに駆け寄った。

エリザベスの手が軽くレイの腕に触れる。親しげなその様子にティナは目を背け、その場から立ち去ろうとした。


「ティナ! どこに行くのだ?」

「エリザベス王女は、あなたにお話があるそうよ。あなたの息子のことで!」

「息子? ベス……君はアーロンのことを」


エリザベスは少し視線を下げ、眉を吊り上げた。何も答えないまま、肩を竦めて見せる。

だがそれ以前に、ティナはレイが彼女を「ベス」と呼ぶ声にショックを受けていた。しかも、レイの苛立たしそうな仕草が自分に向けられたようで、ティナは今にも泣きそうだ。

そのとき、レイはゆっくりとエリザベスの手を振り解き、ティナの横に立った。


「君の居場所はここだ、ティナ」

「わ、わたし、がいたら……ゆっくりお話ができないでしょう? だったら」

「話すようなことは何もない」


レイは厳しい声で言い切るとエリザベスに向き直った。


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