アジアン・プリンス
(18)甘く苦いキス
プールの中は思ったほど冷たくはなかった。

ティナは学生時代に泳いだきりで、泳ぎはそれほど得意じゃない。でも、レイに万一のことがあったら……。

そう思うと、後先考えず飛び込んでしまった。

水中は真っ暗だった。宮殿の灯りもここまでは届かないらしい。この中にいる限り、暗くてよく見えない、のは確かだろう。でも、これではレイの姿も見えなかった。


(誰か……人を呼んで来なくちゃ)


少し頭が冷え、ティナが落ちつきかけた時――。

彼女は不意に下から伸びてきた“何か”に手首を掴まれた。驚くティナが目を見開いた瞬間、そこにレイがいたのだ。


水中で瞳の色が見えるほどレイは近づき、そのまま……彼はティナの唇を奪った。


強く手首を掴まれたまま、彼の片方の手はティナの背中を撫で……気がついたときには、レイの胸にしっかりと抱きしめられていた。


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