屋上の話
初対面にバカと言われたのは初めてだった。

あたしは別に気にしないけど、ほかの人が聞いたらきっと怒るだろう。

気を付けたほうがいいんじゃないかなぁと内心お節介。


「で、誰って聞いたんだけど」


神田君は起き上がって大きなあくびをする。

もうあたしの中では神田君=猫でインプットされた。

かわいさは激減したけど。

とりあえず正座で自己紹介をする。

その間も大きなあくびを一つ。


「同じクラスの斎藤春美です。神田君でしょ?」

「…そーだよ。何か用?」


不機嫌そうに目を細める神田君。

目にかかるほどの前髪が風に揺れた。

<何か用?>と聞かれても、本当は特に用は無いわけで。

脳内フル回転で言い訳を探す。


「えっと、写真でも撮ろうかなぁ、なんて……」

「……」

「嘘です、すいません。特に用はないです」

「そ。ならあっち行ってよ」


頑張って絞り出した言い訳も効果はなかった。がっくり。

ちらりと神田君を見ると、立てた膝の上に肘をついてぼーっと遠くを眺めていた。

…なんか合ってる。

風に揺れるサラサラな黒髪。

眠いからか少し細い目。

白い肌。

なんとなく女の子みたいだなと感じた。
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