佳き日に

君がいるあの街へ


[4]



片栗粉を水に溶かしたような白くべとべととした意識の中にいたエナカを目覚めさせたのは、誰かがお煎餅を食べている音だった。

バリボリ、バリボリと耳に響く音に釣られて、エナカは重い瞼を持ち上げる

目を開けたばかりだからか焦点が合わず、目の前が認識できない。
ぼんやりと何か白いものがあるのは分かる。


「おい。聞こえるか。」

横から誰かにそう呼びかけられた。
聞いた事のある声だ。
でも、誰だか思い出せない。

エナカはまだ覚醒していない頭をゆっくりと横に傾ける。


「久しぶりだな。調子どうよ。」


サングラスをかけた、五十代を過ぎたであろう男はそう言ってニッと笑った。
歯は煙草のせいかかなり黄色くなっている。

そんなところからも、彼が腹に一物かかえているようなオーラがにじみ出ている。

「何であんたがここにいるの。」

まだ頭はボーッとしていたが、エナカは出来るだけすごみをきかせてそう言った。

そうしている間にも、目は段々と焦点が合ってきて周りの風景を落ち着いて見れるようになってきた。
エナカがいるのはどうやら病院のようだ。
白いと思っていたが、実際は淡いクリーム色の天井。
エナカ自身は白いベッドに寝かされている状態だ。




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