佳き日に
「赤い女の居場所を教えろ。」
その言葉と共にガッと鈍い音が聞こえる。
汚い路上にいくつかの赤い血しぶきが着いた。
もう一度、鈍い音。
「助けてくれっ・・・」
「なら赤い女はどこか言え。」
「知らないんだっ!あれはもう20年以上も前のことじゃないか!」
生まれて約16年。
今まで一般的に平凡に生きてきた私が初めて脅迫なるものを見た。
グロいものとかが苦手なわけではないけれど、あれはいささかショッキングすぎたと思う。
黒い服を着た男の人が30代後半くらいの男の人を何度も殴りつけている。
鈍い音が響く度に周りに赤い飛沫が飛ぶ。
「もう一度聞く。赤い女はどこだ?」
「知らないんだっ。頼むから許してくれっ。」
殴っている黒い男の顔は見えない。
助けてと懇願する男の顔は血と涙でグチャグチャだ。
ちょっと、何やってんの私。
危ないから、早くここから立ち去らないと。
頭ではそう考えていても、足は動かなかった。
多分恐怖心のせい。
絶対的な暴力の怖さを初めて知った。
その時、今まで殴る蹴るといった行為しかしなかった黒い男がジャケットの内側から何やら鈍く光る物体を取り出した。