イジワル社長と秘密の結婚
「咲希、迫田課長の誘いに乗るつもりだったのか?」

「えっ? そんなつもりはなかったんですけど……」

ついて行くように見えたのかな……。そう思われても仕方ないか。課長課長と、浮かれていたのは私なのだし。

「それなら、簡単に誘いに乗るな。咲希が課長に憧れていることは、本人がよく分かってる。彼、いろんな意味で賢いから」

「はい、反省します。それにしても蒼真さん、私たちの会話がよく聞こえましたね」

「聞いてたんだよ。そっちが変な空気になってきたから、こっちは早く切り上げたんだ」

そうだったんだ。恨めしげに見られ、思わず視線をそらした。

「でも、なんでそこまで?」

「一応、夫婦だから。咲希の行動は気になる」

夫婦になって、ようやく丸一日経っただけ。それなのに、蒼真さんはこの関係に、どうしてこんなにまで前向きなんだろう。

「でも、私たちいずれは……」

“離婚”と言いかけて、蒼真さんがそれを遮るように言った。

「なんだかんだ言っても、俺たち離婚は出来ないよ」

「え? どういう意味ですか?」

そう聞いたけど、蒼真さんは質問には答えてくれず、その後私たちは会話のないまま、タクシーは家へと着いた。




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