イジワル社長と秘密の結婚
「じゃあ、伊原さん。またあとで」

部長たちが会議室を出る間際、課長がそう言いながら私の肩を軽く叩いた。

「はい……」

と返事をしたものの、さりげないスキンシップが気まずい。私がきちんと断っていないのが原因かと思うと、早くはっきりさせないといけないと焦りも感じていた。

「咲希……」

「えっ?」

蒼真さんの声がして振り向くと、ふいに唇を塞がれた。目を閉じる暇もなかった私に、彼はクックと笑った。

「隙アリだな。どうしたんだよ、ボーっとして」

そう言いながら蒼真さんは、私の隣に座った。さっきまでの厳しい顔つきはどこへいったか、私だけに見せる柔和な表情になっている。

「あ、ごめんなさい。ちょっと上の空だったみたいです」

苦笑して誤魔化す私に、蒼真さんは笑みを浮かべて顔を覗き込んできた。

「迫田課長となにかあった?」
< 84 / 156 >

この作品をシェア

pagetop