愛は満ちる月のように
美月が勢いをつけて立ち上がったせいだ。両手をテーブルについている。

その瞳には怒りが見えた。


「いい加減にしてくださらない? ボストンを出てから、一度も会いに来なかったのはあなたのほうでしょう? 私がそう簡単に日本に戻れないことも知っていたはずよ。ユウさんには感謝してます。でも、嫉妬深い夫のように振る舞うなら、私は代理人を立てるわ」


嫉妬などありえない。

女性に執着したことなど一度もないのだから。十六歳の美月に感じた同情、或いは保護欲。それが大人の女性に成長した彼女を前にして、支配欲や性欲になりつつあった。

悠はあらためて深呼吸する。


「悪かった。嫉妬じゃないよ、ただ……美月ちゃんを守ってあげられるのは自分だけ、そんな思いがずっとあったんだ。もう必要ないと言われて、ショックだったらしい」


気持ちの半分くらいを正直に答える。


「とにかく座ってくれ。代理人は要らない。離婚理由を話してくれないか?」


美月は黙って腰を下ろした。

しばらく無言の時間が過ぎ、やがて、彼女のほうから口を開き……。


「私……子供を産もうと思ってるの」


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