愛は満ちる月のように
愛する人に愛して欲しい。

だが、見返りだけを求めるなら、それは自己愛に過ぎない。


「わかりました。私、彼に本当の気持ちを伝えていないんです。これが最後なら、ちゃんと伝えたいと思います。それでもダメなときは……那智さんには申し訳ありませんが」

「そのときは私に遠慮はいらないよ。あんなバカ野郎はさっさと捨てて、新しい恋を探したほうがいい」


美月を笑わせようと思ったのか、那智は明るく答える。


「そんな……運命を感じる人なんて、そう簡単には現れないと思いますけど……」

「“運命”なんてものは、後づけで充分だよ。最初から構えていたら何も見えなくなる。恋をして、最高に幸せだと思ったら、それが“運命”なんだ。最初のひとりが最後になる幸運な人間もいれば、何回も失敗してやっと巡り合える人間もいる。愛に答えはひとつじゃない」


那智はふわっと微笑み、


「だから……君が私に運命を感じても、少しも不思議じゃない……だろ?」


その言葉に、思わず笑みの零れる美月だった。


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