愛は満ちる月のように
柔らかそうな頬や顎のライン、女性特有の押しつけがましい程の愛情を含んだ声音も……桜はいつの間に、これほどまで母に似てきたのだろう?

窓から朝日の射し込む廊下で、悠は桜の顔をまじまじと見つめる。


「なっ、何? そんな、珍しいモノでも見たような顔しないでよ!」

「いや……おまえって、幾つになったんだっけ?」

「はぁ? 二十七よ。悪い?」


いつまでも『お兄ちゃん』と呼んで後を追いかけてくる少女のイメージしかなかった。


「桜は母さんに似てるな……とくに声が。顔も似てきたけど……」

「そ、そんなこと……」


そのとき――病室のドアが音もなくスッとスライドした。


話し声が聞こえて出てきたのだろう、そこに母が立っていた。

ずいぶん儚げに思えたが、それでも昔と変わらず美しい。何があっても、悠にとって唯ひとりの、そして自慢の母だった。


「……ユウさん……来てくれたのね? よかった……」


懐かしい声が涙に震える。


悠が口を開こうとした瞬間、十年前の母の言葉が甦った。


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