愛は満ちる月のように
千絵は全く信じていないのか、かなり大きめの声で怒鳴った。


「いいわよ! 本当に妻がいるっていうなら、訴えてみなさいよっ!」


「あら……それは私のことかしら?」


ふいに秘書室に通じるドアが開いた。

そこに立っていたのは……。


「……いつ日本に?」


あのタクシーから降りた女性だ。

遠目ではわからなかった。

黒髪のストレートが緩くウェーブしたダークブラウンに変わっている。腰までの長さは以前と同じだ。もともと背は高かったが、今は視線の高さが悠より少し低い程度だ。それはもちろん、昔は履かなかったハイヒールのせいだろう。

そんなことを考えつつ足元を見ると、跪きたくなるような魅力的な脚線が目に入った。

ただひとつ文句を言うなら……サイズを間違えたような、大きめの紺のスーツがいただけない。


悠は自分の“妻”の身体を眺めつつ、気の強そうな瞳に視線を留め、息を飲んだ。


< 6 / 356 >

この作品をシェア

pagetop