愛は満ちる月のように
明るい部屋の中、スーツの上着を脱いでソファの背もたれにかける。

バルコニー側の窓に向かって立ち、カーテンを開けた。

そこからはO市の誇り、暁月城が真正面に見える。


(そういえば……ソレが売りのマンションだったな)


マンションのB棟最上階には展望浴場があり、パーティルームにゲストルームまであった。そこからの景観が最高だと、不動産屋が熱心にここを薦めたのだ。

だが自室からの眺めすら、ろくに堪能したことがない悠には無縁のこと。

そう思ったとき、美月の泊まる暁月城ホテルが視界に入った。


(離婚、離婚と……本当に子供のことだけなのか?)


悠の心に疑惑が首をもたげ始める。

ボストンには、彼女が身軽になって帰ってくるのを待つ男がいるのかもしれない。もしそうなら、きちんとした身元調査をする必要がある。

美月はしっかりしているように見えて、どこか甘い。いや、優しいと言うべきか……。

ひとりで様々なものを背負いながら、弱音を吐かないのは彼女の優しさだろう。


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