愛は満ちる月のように
悠を責める口ぶりに、彼の足は止まった。


「僕も男だからね。……鍵くらい、かけたほうがいい」

「その前に、ノックするべきじゃないかしら?」

 この、美月の真横に立つのは拷問だ、と感じた。


シャワーを浴びたばかりの身体からは、ほんのりと湯気が立ち昇っている。使い慣れたボディソープの香りが、これほど艶(なま)めかしいと知ったのは初めてだ。

何も答えず、相手にしないでさっさと浴室に向かおう。

悠はそう思いつつ、足が動かない。美月の気配に心を奪われる自分がいた。彼女は悠の邪(よこしま)な心を欲望の色に染め上げていく。

しだいに呼吸が速まり、彼は下腹部に生じた熱を感じる。


「ねえ、ユウさん。なんとか言ってくださらない? それでも私が悪いと……」


美月が一歩近づき、悠の腕に触れた瞬間――。


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