愛は満ちる月のように
美月は悠の金も力も必要としていない。自由と安全を確保するための結婚。そのための夫だ。


このあからさまな誘惑に乗っても、悠に失うものは何もない。

彼はそう思いながら、美月のうなじに唇を寄せた。白い肌がピクリと震え、肌越しに伝わるほど鼓動が速くなった。


(これは……OKなのか? それとも……)


不自然なほど、身動きをしない美月が気になり、悠は彼女の肌から唇を離した。

顔を覗き込むと、美月は奥歯を噛み締め、泣きそうな瞳で彼を睨んでいる。


「そんな顔をしてどうしたんだ? 何も言わず、逆らわずにいたら、誰だってOKだと思うだろう?」


すると、ようやく美月が口を開いた。


「そう……思っておられるなら、好きにされたらいいわ……私、私はこんなこと……」


どうやらノーと言いたいらしい。

だが、美月の言葉はどうにもあやふやだ。身を捩る女らしい仕草とは逆で、その矛盾が悠を苛立たせる。


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