愛は満ちる月のように
「それは……経験豊かな女性のもとに行くということ?」


美月の声に込められた嫉妬に悠は驚きつつ、


「そういうことも、あるかもしれない」


昨日まで付き合っていた植田千絵とは別れたが、ほかにも声をかける女性に心当たりはある。


「やめてください! そんな……私が日本にいる間はやめて!」


ふいに語気を強めた美月を悠は凝視した。

すると、彼女はバスローブの前をしっかりと掻き合わせ、ソファの横に立ち上がる。


「私がここにいることで問題が起きるというなら、出て行きます」

「何を馬鹿な。さっきのことを忘れたのか?」

「ほかのホテルに泊まりますから」

「また、無言電話がかかればどうする? 部屋に盗聴器が仕掛けられているかもしれないんだぞ。このマンションは僕が住むことになって、出入りのチェックは特別に厳しくなってる。ここなら、誰かが来ることはない。君はここにいるんだ!」


悠は強い口調で命令すると、美月の返事を聞かずに飛び出した。


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