愛は満ちる月のように
那智の大胆な助言に、悠は酔いがさめた様子だ。


「今のお前は、自分から檻に入って逃げられないと言っているだけだ。鍵はかかってない。いつでも出られる。一条、勇気を出して外に踏み出すべきだ。お前はいずれ中央に戻り、日本経済界を動かしていくひとりになるんだろう?」


悠の姿は、若い時期に女性問題でつまずき、それを何年も引きずっている自分と同じに思えた。

いや、悠のほうが重症だ。那智は相手を見つける意思はあるし、前に進むつもりもある。だが悠は、自分に価値がないように思い込み、人との付き合いすら拒んでいる。


「僕が檻から出たら……それを嗅ぎつけて魔女が現れるんだ。いつまでもどこまでも付きまとう……知ってますか? 魔女の前に法律なんて無意味だってこと」

「だったら……魔女に相応しい武器でやっつければいい」


突拍子のない悠の言葉に那智も応じた。


「もし、お姫様も魔女だったら? いや、助けに行く王子様が、本当は魔王の息子だったら? まあ、そのときは、お似合いと言えばお似合いなんだが……」

「一条?」

「でも……美月は違う……美月だけは、巻き込みたくない……」


ソファのクッションに抱きつくようにして、悠は寝息を立て始めた。


(意味不明だな……人騒がせな奴め)


だが後継者と噂される悠が、決して栄転とは思えないO市に出向してきた理由がそこにあるような気がして……。魔女の言葉に嫌なものを感じる那智だった。


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