愛は満ちる月のように
「店は……ああ、休憩時間か。いや、とくにどこにいても気にはならないが」

『じゃあ、誰といると思う?』

「だから、そんなこと……え?」


少し時間が空き、電話口から別の声が流れた。


『お仕事お疲れさま。外に出たらあなたに報告されそうだったから、那智さんに来ていただいたの』

それは美月だった。

なぜ、美月が那智を呼び出したのか、なぜ彼の携帯から話しているのか……疑問ばかりが頭に浮かび、何も答えられない。


『それから……悠さんの代わりに、那智さんに色々教わることにしました。今夜は那智さんの家に泊めていただきます。あなたの家を使わせていただくのは申し訳ないもの』

「なっ! ちょっと待て!」

『那智さんは私の経験なんて気にされないんですって。それじゃ……安心して戻ってきてください。女性連れでも全然かまいませんよ』

「美月! どういう意味だ! 那智さんから何を聞いた? 彼に替わってくれ……美月? 美月ーっ!?」


悠が叫んだとき、すでに携帯電話は切れたあとだった。 


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