愛は満ちる月のように
那智は何も知らないから、気楽に関わろうとする。

もし美月の事情を知れば……そう思った悠の耳に信じられない言葉が飛び込んできた。


「遺産問題が絡んでるんだって? でも、彼女はすでに成人だ。彼女自身が弁護士だって言うし……」

「そんな簡単な問題じゃない!」


美月が那智に夫婦の関係だけじゃなく、結婚の理由まで話していたことに悠はショックを受ける。


「その件は今、東京のほうに問い合わせて調査してもらっている。結果が出るまでにしばらく時間がかかるし、それに、妙な電話だって……。とにかく、美月は普通の女性とは違うんだ。那智さんが関わっても、面倒なことになるだけで……」


悠の言葉を那智は黙って聞いていた。

しだいに悠の声が小さくなり、やがて何も言えなくなると、


「美月さんから電話がかかってきたとき、“桜フェスティバルはまだやってますか?”と聞かれた。あそこで若い男に声をかけられた。彼らなら、きっと自分の経験など気にもしないだろうから。私に断られたらそこに行ってみる、ってね。――落ちついた声を作ってはいたが、今にも泣きそうに思えた。だから、マンションまで話を聞きに行くことにした」


那智の説明に悠は言葉もない。

美月を思いやったつもりだった。それがまさか、そんな突飛なことを考えるまで、彼女を追い詰めていたとは。


(美月の望みは僕と離婚して、子供を産むことだけじゃないのか?)


美月の本当の望みはなんなのか、悠はますます混乱して……。 


< 96 / 356 >

この作品をシェア

pagetop