愛は満ちる月のように
寝ているのではなく、座っている。そう形容したほうがよさそうな格好に思えた。


(ソファベッドに? カバーを被って? いったい、何がしたいんだ?)


悠は普段と変わらぬ足取りで書斎を横切り、ソファベッドの横に立った。


「那智さんから聞いた。とりあえず、馬鹿なことは思いとどまって正解だ。僕に話したこと以外に、何か困っていることがあるなら相談に乗るよ。言っただろう? 君の願いを叶えてやるって。だから……」


屈み込み、カバーに手をかけたとき、小刻みに震える美月の指先に気がつく。顔を覗き込むと……涙の跡があり、見るからに青ざめていた。


「美月! どうしたんだ!? 何が――」

「……ユウさん……」


ふいに抱きつかれ、悠はたじろいだ。


(那智さんが何か言ったのか? いや、あの人がそんなきついことを言うはずがないし……)


柔らかな身体が押し当てられ、悠の血圧は一気に上昇する。

理性の範疇で話し合いをしたいのに、男の本能が先走りするのだ。


「み、美月……とりあえず、離れて……何があったのか」


そこまで言ったとき、開けたままのドアの向こうから電話の呼び出し音が鳴り響いた。


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