ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-





「ぬしは泣かぬのか」


「…え」


「母親を失ったのだろう。…我も母上はもうおらぬ、気持ちならわからぬでもない」


そう言うと、愁はぎゅっと腕に力を込めた。



「…泣けばよい」




―――溢れた。


葬式の場でも、1人になっても泣けなかったのにここで泣いてしまうなんて。


…それもこれも全部愁のせい。愁の声が優しい。私の髪を梳く指がいたわるようだ。



「あ、り………と、っ」


燈が戻ってくるまでの間、私は愁に抱きしめられていた。
…そんな私を見つめる愁のまなざしがまるで愛しい人を見つめるようだったのを、今の私はまだ知らなかった。





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