天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「……で、お前はどうするんだ?」

灰色の空の下、携帯で話しながら、美奈子は歩いていた。

「まさか…そんな素性も、本当かどうかわからない男と、行動を共にする気か?」

電話の相手は、明菜だった。

「……え!マンションが、見張られていただって!」

美奈子は、道で立ち止まり、明菜の話をきいていた。

「今どこだ?………わかった。店に来るんだな?どれくらいで着く?……一時間か……」

美奈子は、腕時計を見、

「わかった。一時間後に、落ち合おう」



電話を切った美奈子は、劇団の店に戻る為、来た道を戻ろうとした。

ふと…美奈子は、考え込んだ。

「何しに…来たんだ?」

どうして、歩いていたのか…わからなかった。

考えても仕方がない。

思い出せないことなら…大した用でもなかったのだろう。

体の向きを変えようとした時、視線が何かをとらえ、美奈子の動きを止めた。


美奈子は振り返り、気になるものを見据えた。

「喫茶店……」

それは、カフェと呼ぶには、古風な煉瓦造りの店だった。

どうしてか…入りたくなっていた。

(まだ…時間はある)

たかが、茶店に寄るだけだ。

美奈子は、店に向かって歩きだした。

(…でも……こんな店あったかしら?)

劇団の店が出来てから、一年。ほぼ毎日、この辺りに来ているけど、この茶店の印象がない。

単に、見落としていただけなのか。

美奈子は、木造の扉を開いた。


「いらっしゃいませ」

扉を歩くと、正面のカウンターの中から、初老のマスターが頭を下げた。

カウンターと、2つのテーブル席。どちらかを選ぶ選択は、できなかった。

テーブル席は埋まっており、カウンターしか開いてなかった。

1人…お客が座っていたが、席は離れていた。

美奈子は躊躇うことなく、カウンターに座った。

「ここは…コーヒーしかございません…それも、一種類しか…」

美奈子が座った瞬間、コーヒーが出された。

「まずは…一口だけ」

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