天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
第14話 風語
街角にあるATMのみが、設置されている銀行で、

当面生活するだけのお金を、引き出していた美奈子は、残高を見て、ため息をついた。

劇団なるものを抱えている為、お金など儲かるはずがなかった。

普通にバイトしたほうが、お金になるけど……お金より、夢を取ったのだ。

自分の選択が間違っているとは…思ってはいない。


しかし、その劇団もしばらく…他人に任せたのだから、美奈子にこれから、お金が入るあてはない。

持ったら持った分…使いそうだから、一部戻そうか、悩んでいると、

隣のATMの前に、背中を丸めた中年の男が、立った。

男も、ため息をつくと、

じっと目の前の鏡を睨んでいた。


「知ってますか?この鏡の向こうには……カメラがあるんですよ…」

男は、誰かに話し掛けるように、口を開いた。

「映っているように見えて…逆に撮られているんですよ…。この世界は、誰も信用できませんから…」

銀行のATMは、三台。

そして、その前には、美奈子と男しかいない。

明らかに、男は美奈子に話し掛けていた。


しかし、こんな場所で、見知らぬ男と、話す気にもならないし、

まして、お金を下ろしたばかりだ。

そそくさと、銀行から出ようとした美奈子を、隣の男は振り向き……見つめた。

一瞬だけ、どんなやつかと、確認しょうと、美奈子の無意識が、男の顔に、目を向けた。



その瞬間、美奈子は目を見開き、動きが止まってしまった。


男の眼窩には、目玉がなかった。

男は、空洞の目を向け、にやりと笑った。

「残念ながら…あっちが、こちらを見ても、私は見てないんですよ。目がないんですから」

男の笑いに、美奈子は動けなくなった。

出口も、男の横を通らなければ、たどり着けない。



美奈子は、男とできるだけ距離をとろうとしたが、足が動かない。


「驚かれましたか?いやいや…申し訳ない」

男は笑いながら、軽く頭を下げた。





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