天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
第5話 演舞
街角に貼られたポスター。

今や、ネットなどの告知が、メインになっているとはいえ…

まだ弱小の劇団とかは、街に貼るポスターは、重要だった。


繁華街の中心から、十字路を2つ過ぎたところにある…雑居ビルは、

二十代のオーナーが、バーをやっていたり…家賃の安さから、数多くの店が、入っていた。

店だけでなく、簡易劇場やスタジオとして、利用されていたり、

飲食店以外も多かった。

夢の集まる場所。

明らかに、お客より、店員が多いのではないかと、思われるビル内は、

夢に生きる人達の熱気と、笑い声で、溢れていた。


中山美奈子が、主催する劇団――知恵の輪も、そこを本部として、毎日劇を公開していた。

毎日公演するのは、大変であるが…要するに人前で、練習であった。

仲間内でやるより、お客の前で見せる方が、腕も上がる。

大きな劇場を借りて、発表することがメインであるが…

ここでの毎日も、大切だった。

観覧は、タダ(ドリンク代だけ、貰う)で行っていたが、

客が入らない方が、多かった。

それでも、公演はやめなかった。

飲食店専門のビルの為、厨房を改装した音響ブースで、

沢村明菜は、裏方の仕事を任されていた。

本当は、役者希望であるが、まだ入ったばかりの明菜に、なかなかチャンスは回ってこなかった。


美奈子は、推薦枠で、役を与えようとしたが、

頑として明菜は、それを拒否していた。

(チャンスは、自分で掴む)

明菜は、そう思っていた。

劇団は、役者が8人。裏方が3人と…本当に、弱小劇団だった。


しかし、

そんな劇団にも、大きなチャンスが巡ってきた。

世界で、有名な音楽家の半生を描く…劇を公演する権利を得ることが、できたのだ。

美奈子の後輩で、明菜の先輩である…藤木里緒菜。

彼女の親友の母親が、その有名な音楽家だった。


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