天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜

恥部

家に帰り…湯船に浸かる明菜は、今日までの出来事を考えていた。

先日のこと…昨日までのこと…異世界のこと。


時とともに、実感がなくなり、他人のことのように感じていたけど、

その思いは一層、強くなっていた。

お湯の中から、腕を出し、まじまじと見つめた明菜には、自分が武器とは信じれてなかった。

異世界での記憶は…魔法陣の中で閉じ込められたことと、赤星に助けられた記憶しかない。

武器となっていたなんて、信じられなかった。

しかし、信じられないことが起こっているのだ。


自分の知らない所で。



「魔獣因子…」

唐突に、明菜はこの言葉を思い出した。

魔法陣に、明菜を閉じ込めたクラークは、言った。

お前達の世界に、魔物はいないのではなく…

魔物になることが、なかっただけだ。

魔物として覚醒しない人間の…遺伝子に隠された情報を、魔獣因子と呼ぶ。

クラークは、にやりと笑い、

「赤星浩一も、魔獣因子の持ち主だ」




「こうちゃん…」

明菜の瞳に焼き付いている赤星は……

少し気弱だけど…優しく、喧嘩や暴力などには、程遠い人物だった。


世界の変化なんて…明菜に分かるはずがない。

ただ…赤星のことが気になった。

二度と会わない人と、思っていた。


だけど、忘れられなかった。

恋愛をすることもなかった。

別に、無理矢理…忘れようとか、他につくろうとかは思わなかった。

血まみれになりながらも、自分をこの世界に、戻してくれた赤星の姿が、忘れられなかった。

単なる恋愛ではない。




そう単なる恋愛ではない。

新しい恋を探すことではない。

でも…


婚期は遅れるだろうが、

いずれ…誰かと結婚すると感じていた明菜に、

今回のことは、思いがけないことだった。



でも、不安はある。

「星野ティアナ……」

あの綺麗な女が気になった。

だけど……………………………………………………………………………………………それは…。
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