GEDOU―樹守る貴公子―



 しばらく立ち止まってから、薬草を手にしたままそっと戸を開けた。


 これは一般常識でいえば不法侵入と言えるのだが、多優に至っては、どちらかといえば本人に見つからないほうが良い。

 
 だから不法侵入こそ、正しいやり方なのかもしれない。


 実際は「助けてくれた恩返し」としてこうやって薬草を採っては、相手のいない間に届けてやっているのだが、どこかそれを「恩返しのついでに相手に逢っている」と吐き違え始めた自分が、多優の中にはいた。



 その相手を、莢という。



(いや、莢がいないとすれば好都合だ。薬草を置いてとっとと帰ってしまえば良い)


 軽い足取りで古びた家の戸を開けると、多優は思わず絶句した。


 莢がいたのである。


(何ぃーーっ!?)



 こうなることなら、隠形の術でも使って入ってくるんだった。


 莢の事だ。どうせ明るい顔で「戸を叩いてくれればいいのに」と、苦笑してくるに違いない。


 いや、戸なら叩いたぞ、ちゃーんと。


 こんがらがる頭を整理しつつ、多優はふと目を凝らした。







 
 


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