桜空あかねの裏事情

囁くようなか細い声が聞こえて、顔を上げれば朔姫と目が合う。
彼女自身はそんなつもりでは無かったのだろう。
だが何故か冷たい視線を浴びせられてるような気がしてならなかっかた。
知らないし、聞いてない。
あの男が勝手に言ってるだけだと言いたかったが、彼等の反応からして言ったとしても今ある事実で手一杯で、そう簡単に受け入れられそうにもないだろうと、あかねは必死に思考を巡らせる。


「えっと…その……」


自分が悪い事をしたわけではないのに、言葉を紡げば紡ぐほど、痛いほど視線を浴びせられ徐々に言葉を失う。


「アーネスト」


言葉を紡げないあかねに、これ以上の弁明は無理だと判断したのか、或いはしびれを切らしたのか。
見かねたジョエルがアーネストに声をかける。


「そこで困惑してるお嬢さんを自室に連れて行け」


あかねを横目で見遣りながら告げる。
少し距離がある為、やはりサングラス越しの瞳は見えない。


「とは言ってもね……あかね嬢が誰より一番知るべきだと思うけど」


最もだ。

――私は何も知らない。

彼等の様子から、リーデルというのがオルディネにとって重要なな事だとは理解出来る。
けれど全てを知らない限り、明確な判断など到底出来ない。
ましてや火種を蒔いた彼の意図さえも掴めず、自分の意見さえも言えていないのだ。
あかねは透き通るような青い瞳で、ジョエルを見据えて口を開く。


「私、何も知らない」


単純で簡潔な言葉だった。
あかねにとっては、特に考えることもせず、素直に出た言葉でもあった。
それでもジョエルには理解出来たのだろう。
差ほど間を置かず返事が返ってくる。


「分かっている。君には後で説明しよう。だが今は邪魔なだけだ」

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