桜空あかねの裏事情
口では悪びれているようだが、表情は反省どころかむしろ笑っている泰牙に、あかねは騙されたと確信し、顔を赤らめながら抗議をする。
「当然です!もうっ……泰牙さんも人が悪い!」
「悪かったと思ってるよー。でも気になっちゃったんだもん」
「だもんって……だったらもっと冗談っぽい事を言って下さい!本当に出て行っちゃうのかと思ったんですから」
少し眉根を下げてそう告げると、泰牙は困ったように笑って、あかねの頭に手を置いた。
「うーん。ごめんね。今度から気をつけるよ」
そう言いながら軽く撫でられ、少し照れくさくなって視線を逸らす。
「むー。気をつけるより、もうしないで下さい」
「はいはい。でも俺は安心したよ」
「安心?」
「だって思ってた以上に、君に好かれてたみたいだからさ。最近人とあんま関わって来なかった俺としては、すごく嬉しいんだ」
「…………」
心底嬉しそうな笑みを浮かべる泰牙を見て、あかねは他者から聞いた事を思い出す。
以前に起きた惨劇から、命の危険に脅かされながらも、目の前にいる彼は今日まで生きている。
その中で決して一人で生きてきたのではなく、そこには今の自分のように、必ず他者の存在があって。
彼らに助けられた反面、裏切られたこともあっただろう。
もしかしたら、後者の方が多かったのかも知れない。
そんな風に過ごしてきた彼だから、手に取らなくても分かる好意を正面から受けたとしても、その全てを信じる事は出来ず、だけど信じたくて。
敢えて自分を試したのは、信じられる確かな証拠が欲しかったのではないかと。
「ところでさ」
膝に置かれた雑誌を退かしながら、流れを切るように呟いた泰牙。
あかねは思案に浸っていたが、彼はその沈黙に耐えきれなかったのだろう。
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