桜空あかねの裏事情

「はい。当然ながら、リスクはありますが、やってみる価値はあるでしょう」


――この方法が一番、勝機を見い出せる。
尤も、ジョエルに言えば難色を示すに違いないとしても。


「昶、すみませんがアーネストさんと泰牙さんを呼んできてもらえますか?」

「分かった」


頷いて駆け出す昶。


「大丈夫かしらね」


彼を見送ると、ギネヴィアが不意に呟く。


「どうかしました?」

「いや、多少の好機があるなら私は構わないんだけど……ジョエルはあんまり良い顔しなさそうよね」


否定はしない。
好機があるとは言え、この計画はあまりに単純で無謀だ。
それに対して、常に用意周到で一手、ニ手先を見据えているジョエルがどう思うのか、結祈は手に取るように理解出来る。


「確かにねー。説明しても聞いてもらえなさそうだし、何より結祈じゃダメだよね」

「陸人、そういう言い方は――」

「そうですね」


諫めようとしたギネヴィアの声を遮って、はっきりそう告げる。
何故か最初にふっかけた陸人が唖然とする。


「今の自分は、あの人に勝てません。ましてや言葉でなんて」

「へぇ…認めちゃうんだ?んで、またジョエルに従うつもり?」

「いいえ」


今度は否定すると、陸人はますます意図が掴めなくなり、深く顔をしかめる。


「意味不明なんだけど」


その言葉に、結祈は少しだけ可笑しそうに笑う。


「大した事ではないです。ただ……たまには自分勝手にすべき事をしようと決めただけなので」


――狡猾で卑劣で、残酷なほど子供過ぎるあの人に、いつまでも都合の良い道具ではないことを、教えて差し上げましょう。


「ふふ……少し楽しみですね」


妙に清々しい笑顔を浮かべる結祈に、その場にいる三人は、全く意図を掴めずにいた。


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