さよならのその先に
    

何度目かのキスの後、事も無げに吉野は「夏帆が好きだ」と言った。


この男、吉野とは一年前にバイト先で知り合った。

その駅前のお洒落なカフェはいつも賑わっていて。

どうして、こんなに忙しい店をバイト先に選んでしまったのだろうと後悔したけれど。

そんなあたしの気持ちは吉野と親しくなるにつれ薄らいでいった。


吉野のキスは蜂蜜を舐めるように甘い。

一度味わうと、くせになって止められなくなる。

『もっと、して』と、強請るようにそのビー玉のような瞳を見詰めてしまう。

最初のキスは出会って何日目だっただろう?


「今日はしたくない」

素っ気無く吉野に伝えて、あたしを抱きしめる腕を解いた。



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