《短編》家出日和
崩壊
そのまま俊ちゃんは、あたしを残して部屋を出た。


驚くほど冷静にあたしは、竹内にドタキャンメールを送って。


どこかに逃げようと思ったけど、こんな格好では外に出ることさえも出来なかった。


お風呂場で傷が付きそうなほどに体をゴシゴシと擦って。


鏡に映る自分は、ところどころ打ち付けたのであろう痣や、

押さえつけられて出来たのであろう傷があった。


本当に、醜い。


誰にも相談することなんて出来なかった。


思い出すのは、恐怖心と痛みばかり。


初めてだったあたしが、

優しくされていたのか乱暴にされていたのかなんて、わかるはずがなかった。


だけど、レイプに他ならないということだけはわかった。


なのにあたしには、逃げる場所もないんだ。


自ら望んで俊ちゃんの家に来たあたし。


大嫌いな親戚達に頼ることは、何があってもしたくなかった。


だけどこれから、どんな顔して一緒に暮せと言うのだろう。


優しい顔して笑ってた俊ちゃんは、

きっともぉ、どこにも居ないんだ。


情事の痕跡を消すように、リビングに残る生々しい液体を拭い取る。


懸命に擦り続けると、また思い出したように涙が溢れて来て。


折角綺麗になった場所に、あたしの目から出た雫が落ちた。




さよなら、馬鹿だったあたし。


さよなら、俊ちゃんへの気持ち。


ごめんね、お父さん、お母さん。


ごめんね、竹内。


もぉ絶対、あたしは泣いたりなんかしないから。


強くなろうと決めた、秋の始まり。



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