《短編》家出日和
脱走
無事にあたしは、高校2年に進級出来た。


そのことについては、あたし自身が一番驚いてるけど。


まぁ、やれば出来る子なのだろうな、と。


馬鹿なりに、頑張った自分を褒めておいた。


あれから俊ちゃんに、目に見えた変化はなくて。


どこか優しくなった部分があるとするなら、あたしが聞いてみたいものだ。




新緑が、顔を出し増え始めるのと同じように、

寒い冬を乗り越えたたくましいナンパ男達も、街に顔を出し始めて。


納豆の粘り気と同じくらいにしつこいと感じてしまう。


それでもあたしは、することもなく街をさまよい歩いた。


いざお金があると、一通り欲しいものも買えてしまうから。


逆に物欲なんてなくなるのが人間だ。


学校に居てもあんまり話しかけられないからあたしは、

きっと誰かに必要とされたくて、無意識のうちにこんな場所に来てしまうのだろう。



『彼女!
カラオケ行こうよ、カラオケ!』


そんな安上がりな撒き餌に、今日び引っ掛かるヤツなんて居ないだろうに。


やれやれとため息を吐き出し、話を聞くこともなく足を進めた。


今日は俊ちゃんがご飯がいらないからと、街に来てみたけど。


相変わらず、どこに居たってちっとも楽しくない。


まぁ、こんなことがバレたらまた何をされるかわかったもんじゃないけど。


束の間の脱走劇は、だけどやっぱり俊ちゃんのことばかり考えてしまうから。


とてもじゃないが、自由になれた気はしなかった。


気付かぬうちにあたしは、心まであの人に繋がれてる気がして。


何て自分は、惨めで可哀想な存在だろう、と。



夜7時。


陽が長くなったとは言え、いつまでも夕方じゃないから。


さすがにこの時間になると、辺りを包む色が変わる。



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