わたしの魔法使い
そういえば、

「…颯太って…呼んでほしいのに……」

って聞こえたけど、あれって空耳だったのかな?

背中で揺られてて、気持ち良くて、ウトウトしてたけど……

でも、聞こえたんだよね。

小さい声だったけど……

私の妄想とかじゃないよね?!

だって、私も“颯太”って呼びたいって思ってたから。

でも……


ちゃんと聞こえた……


「…颯太って…呼んでほしいのに……」


って……



私も……“朱里”って呼んでほしい……

“朱里さん”でも“朱里ちゃん”でもなく、“朱里”って……



そっと目を開けると、靴を履く颯太さんの背中が目に入った。


華奢に見えて、意外に大きな背中。



「いってらっしゃい……颯太……」


――!自然と言えちゃった!


は、恥ずかしい!

慌てて被る布団の中は、私の心臓の鼓動だけが響く。

もう!ドキドキうるさいよ!

静まって!静まってよー!



だけど、そのあとの言葉は、自分でも驚くほどしっかりと言ってしまった。


「朱里って呼んでほしいのに……」



颯太には聞こえたかな?

きっと聞こえてる……よね?


布団被ってるから見えないけど、きっと赤い顔して、金魚みたいにパクパクしてるんだろうな……


それを思うと、布団の中で笑ってしまった。



「可愛い人……」



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