わたしの魔法使い
店の名前が決まったあとは早かった。

チラシやホームページの作成、新聞折り込み、駅前でのチラシ配り。

やることはたくさんあった。


怒濤のごとく過ぎていく時間の中、朱里を思い出すことも減っていった。






駅前のチラシ配りは楽しかった。

初めて自分がこの顔でよかったと思えた。

かつての自分がそうだったように、受けとる人は少ないだろう。

そう思っていた。だけど現実は違って、みんな好意的に受け取ってくれた。

特に“おばちゃん”と呼ばれる世代の人たちは、『きれいなお兄ちゃん』といって、可愛がってくれた。

『開店したら、遊びに行くね』

そうおばちゃんたちは言ってくれた。

僕をお金で買っていた人たちとは違う、優しい人たち。

そんな人たちに囲まれて、楽しい時間を過ごした。






……開店まであと1日。


店も僕も、準備完了。

あとは明日を待つばかり。




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