わたしの魔法使い
颯太さんと住み始めて一ヶ月。

楽しくて、穏やかな毎日が続いている。

相変わらず颯太さんの作るご飯はおいしくて、幸せな気分にさせてくれる。


でも……


颯太さん自身のこと、あんまり知らない。

わかっていることは、誕生日が7月で、本を読むことが好きなことだけ。

驚いたのは、颯太さんが持ってきた荷物に数冊の本が入っていて、そのすべてがライトノベルだったこと。

それも、女の子向けの本ばかり。


その中に、“千雪”の、私の本が入っていた。

もう7年も前に出たその本は、表紙がボロボロで、何度も読んだことがわかるほど。


「この本……」

「ボロボロでしょ。でもね、好きなんだ」

「ふーん……」


なんて答えればよかったか、わからなかった。

でも、私が初めて書いた本を、大切に、何度も読んでくれた人がいる。

それが嬉しかった。


「…でもね、最近新作が出ないんだ。楽しみにしてるのに……」

「……そう。」


もうそれ以上聞けなかった。

楽しみにしてるのに……

そう言ってくれた。



本当はね、私が“千雪”なんだって言いたい。

ボロボロになるまで読んでくれて、ありがとうって言いたい。

だけど、今はまだ言えない。


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