マスカケ線に願いを

「あ、大河原さん」
「うん?」

 金田君はそっと声を潜めて、

「ほら、今度佐々木主任の誕生日じゃん」
「あ、そういえばそうね」
「先輩達に皆で飲みに行こうって。幹事任されたんだけど、大河原さんも手伝ってくれない?」

 これは、金田君押し付けられたな。

「今週末?」

 言ってから、ふと週末の予定を思い出す。
 ユズのところに泊まりに行くんだっけ?
 でも、別に大丈夫か。

「いいわよ」
「よかった! 俺、あんま良い店とか知らないし」

 それだったらあんずの二階でいいんじゃないかな。

「わかった。後で連絡するね」
「ありがとう」

 私はパソコンを開いて、与えられた資料に向かった。
 昼休みまでにきちんと資料の内容を頭に入れようと集中した私は、突然声をかけられて顔を上げた。

「大河原さん、お昼一緒にどう?」

 金田君が話しかけてきたけど、ちょうど区切りのいいところでよかった。

「ごめんなさい。お昼は約束があるので」
「あ、岩山さん?」
「ううん」

 誰かとは言いにくいけど、私は笑ってお弁当を持って立ち上がった。

「それじゃあ、待たせたら悪いから行ってくるね」
「あ、うん」

 私は上階に向かおうとして、階段のところでユズと鉢合わせした。
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