マスカケ線に願いを

「何人かと付き合ったけど、皆同じ事を言って別れを告げるの。向こうから、私に言い寄ってきたくせに」

 向こうから近づいてきたくせに、私が少し心を許したとたんに、飽きて離れていった男達。

 知らず、ユズの手を握る私の手に力が入っていた。

「杏奈は、俺なしでも生きていけるだろって……皆、口をそろえて言うの」
「杏奈……」
「私は、ユズが同じことを言って、私から離れていくのが怖い」

 ずっと、頭から焼きついて離れない。
 ユズはいつか私に同じ言葉を吐いて離れていくって。

 それは、一種の脅迫概念みたいなもの。

「ユズと一緒にいて、一緒にいることに慣れるのが怖いの。弱くなることが……怖い」

 それでも、私はユズに毒されてる。
 ユズに、溺れかけている。

 お願いだから、この揺れる想いを、どうにかして――……。


「杏奈は俺なしでも生きていけるだろ」
「っ」

 ユズの言葉に、私は息を飲んだ。
 しかし、ユズはその顔に笑みを浮かべた。

「そんなの最初からわかりきってる。杏奈に俺は必要ない」
「ユ……ズ……」

 ユズは私の頭をなでる。


「でもな、いいこと教えてやる」

 そして、悪戯を企む子供のように、

「俺には杏奈が必要だぞ」

 私の心を射止める言葉を告げた。

< 136 / 261 >

この作品をシェア

pagetop